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Google AdSenseが消えた日

shock

20xx年4月 都内某所

それは突然の通知だった。

いつものように遅めの朝食をとったあとメールチェックするのが習慣だった俺にとって、最悪な1日となることを予言する報せ。

「Google AdSenseは本年4月末をもちましてサービスを終了いたします」

視覚から飛び込んできた情報を脳内で処理するまでに一瞬のタイムラグ。直後に真っ先に出てきたのは”いたずら”の4文字。そして”エイプリルフール”の8文字。つづく”ありえない”の4文字。

4・8・4だからちょっと語呂が悪い。そんなことを考える余裕もSNSの通知で消えうせる。

『うぇぇぇアドセンス停止とかきたんだけどマジ!?』

『おまえのアカウントだけだろ』

『サービス終了に伴いブログ終了のおしらせ』

『アフィリエイターざまぁwww』

え、いたずらじゃないの?ホントなの?マジでグーグル何してくれてんの? 俺の生活どうなんの?

会社を辞め、ブログで生活していくことを決断したのはつい3ヶ月前の話だ。辞めることを打ち明けた同僚の目には嘲笑とか憐れみとかそんな光がちらついていたけど、見ないふりをした。

俺はこれから自由になる。会社に囚われない新しい生活をスタートさせる。他人の目などにいちいちかまってられない。

上司からは形式上止められただけで、深追いされることはなかった。会社が俺というパーツを失っても機能を停止することはない。すぐにもっと扱いやすく壊れにくいパーツが届くのだろう。壊れやすかったとしても代わりはすぐに見つかる。組織なんてそんなもんだ。

仕事は嫌いじゃなかったし、好きでもなかった。学校を卒業して就職し、毎日生活していくために必要なお金をもらう。世の中のレールに沿って生きてきただけの話。

ありふれた日常で良いとも悪いとも判断がつかないけれど、それは正しいことだと親にも先生にも教えられてきたから、「いや間違っているし悪いことだ」と言い切る術を俺は知らない。

日常生活が変わってきたのは、ブログという存在に出合ってその中身を深く知るようになってからだ。はじめは日記とも雑記ともつかない記事を更新し、気がつけば1年間毎日更新を続けていた。

これほど長く続いている趣味は今のところほかにないから、自分でも信じられなかった。まあブログの存在なんて、おつまみに添えられているパセリぐらいのものだったから長く続いたのかもしれない。メインディッシュだったら気合が入りすぎてすぐ止めていたと思う。

1年の間にオンラインで交流を深めるようになったブロガーさんもいるし、共通の話題で盛り上がれる友人も得た。1回だけオフ会に参加したこともあって、その時は緊張していたから誰と何を話したかなんて忘れたけど、社会人になってはじめて新鮮な気持ちを味わえたのだけ覚えている。

その後、ある記事をきっかけに俺のブログは多くの注目を集めることになった。と言っても、ひとつの記事がたまたま5万アクセスという数字を出しただけのこと。それまで500前後のアクセス数が一気に100倍。何が起きたのかよくわからず、状況を把握できたのはしばらく経ってからだった。

有名なブロガーさんが記事を紹介してくれ、あっという間にソーシャルメディアで広まったらしい。実はサーバーが極度のアクセス数に耐えられずエラーを起こしていたので、実際にはもっと多くの人がアクセスしてくれたと思う。その日は管理画面にログインすることさえできなくて、どこぞの国からアタックを受けたのかと焦った記憶がある。

5万人をいち個人が集めるなんて、リアルの世界ではまず考えられない。売り出し中のミュージシャンがドームツアーをすれば簡単にいくだろうけど、その背後には何百人という人間が関わっている。

たった50文字ぐらいのつぶやきが5万人を呼ぶのだから、すごいことだ。俺はいったん味わったPVのおいしさにすっかり魅了されてしまった。

5万人のうち数%はリピーターになってくれたようで、アクセス数は地道ながらも順調に上がっていった。毎日更新は続けていたし、SNSを意識するようにもなったし、不思議なことに検索サイトからやってくる人もその日を境に増えてきた。

さらに1年が経過し、その間に何度も1日アクセスの爆発を体験し、気がつけば月間100万PVという数字を出せるようにもなっていた。どこの誰ともわからない俺のブログが100万回も見られている。1日1万という数字を見ても何も感じなくなっていた。

ブログを始めてから2年ちょっとの間に変わったことと言えば上位サーバーに変更したことと、広告を掲載するようになったことぐらいだ。アフィリエイトに関してはブログを始めたばかりの頃にちょっと調べて広告を貼ってみたけど、月に150円ぐらいの結果しか出せずすぐ止めてしまった。

月間10万PVを超えるようになってから親しくしているブロガーさんの勧めで再び広告を載せ、100万PVになってからは広告収益だけで本業の給料を超えるようになっていた。

はじめは調子に乗ってお金を使っちゃったけど、税金が怖くなって広告収益には手をつけず、給料だけで生活するようにした。それでも心にはゆとりができたし、会社をクビになることがあるとしてもしばらく大丈夫だという余裕も生まれた。

別にクビを恐れてビクビクしていたわけじゃないけど、心のゆとりがあると仕事もスムーズにできるようになった気がする。それは表面化していないからほかの人が見てもわからないと思ったけど、どことなく変わったというのは見抜かれていたと辞める時に知った。

100万PVが安定するようになった頃、あるブロガーさんに会う機会を得た。彼はプロブロガーと呼ばれていた人で、俺も存在は知っていたけどプロを目指していたわけでもブログで生活することを夢見ていたわけでもないから、特別感慨深いということはなかった。

ただ、話をしてみると意外にも俺と状況は変わらないことに気づいた。ことブログにおいてはPV数だってずば抜けてすごいとは思わなかったし、広告収益だけを見れば俺と変わらない。違う点と言えばアドセンスと販売広告枠の割合と、会社員かフリーかの2点だけ。

彼は広告収益以外にもセミナーやメディア出演、書籍執筆で報酬を得ているらしく、なぜか俺にもその生き方を勧めてきた。なぜ会社勤めをしているのかわからない、とすら言われた。

たしかに会社を辞めたところで困ることはない。収入はわずかに減るものの、生活に影響はない。それどころか、会社勤めに費やす時間をブログに割ければ今以上の収益を得る自信もあった。時間と収益は必ずしも比例するものじゃないけど、会社の束縛から離れられればセミナーだって何だって自由にできる。

それから俺は「このままでいいのか」「やるなら今しかないんじゃないか」という考えにとりつかれるようになった。もしここら辺でブログ人気が下降気味だったら思い留まっていたかもしれないけど、幸か不幸かブログは健在だった。

半年後、俺は同僚から憐れみ半分の目で送り出されることになる。

さらに3ヵ月後、つまり現在。そんな昔話に花を咲かせるほどの余裕は俺にない。アドセンスが終了するということは、収益が確実に半減することを意味する。今すぐ路頭に迷うことはないが、打開策がなければそれも現実になるかもしれない。

フリーになるということにそれなりのリスクがあることは覚悟していた。だから、リスクを分散するために新たなブログも作り始めたし、アドセンスや今まで使っていたASP以外の広告も検証するようになっていた。

そんな時に突如訪れた終了の報せ。

来月から俺の収入は半分以下に落ちる。今から他の広告に乗り換えたところで同じ水準を保てる保証もないし、もしかするともっと悪い結果になるかもしれない。全ASPが突然サービスを停止すれば、俺の収入はゼロを超えてマイナスになる。

2ヵ月後に控えていたセミナーだって、その後に予定していた書籍だって、ブログで生活するという実績がなければ語るものはなにもない。

考えてみれば広告収益がゼロになっただけで収入がゼロになると言うことは、それだけ危ない橋を渡ろうとしていたのだ。もちろん会社に勤めていたって倒産やリストラの可能性はある。でもそれとは話が違う。生活の保障はないし、バックアップもない。

独立するということは、全責任を自分で負うということだ。

俺は明日から、いや今から何をすればいい? 頭を下げて会社に戻る? 新たな就職口を探す? このままブロガーとして生きる道を模索する? ほかにビジネスチャンスを探す?

俺は・・・

あとがき

当たり前ですが、この話はフィクションです。

Googleさんに怒られそうですが、ちょっとリアリティがあってもいいかなと無断でアドセンスをネタにしてみました。

ENJILOGさんの「ブログで生活できるのか?」というエントリーを読んで何ものかに誘われるように書き上げてみた次第です。パーマリンクも同じw

僕はブログで生活したいという人がいれば応援しますが、誰かにブログ一本で生活しなよとは勧めません。あらゆるリスクがありますが、それも込みで本人の覚悟の問題なので他人がとやかく言う話じゃないと思っています。

何も考えず突き進もうとする人を見かけたら止めちゃうかもしれませんが。

ブログで飯を食うにしろフリーランスになるにしろ、全責任は自分で負わねばなりません。あとは本当に覚悟の問題です。

あー、久々に休憩も校正もなしで書き進めて楽しかった。読み返していないのでところどころおかしいかもしれませんが、余興なので放っておきます。

それでは、また。